臨床に進む人は、卒業して存わが国での医学研究のかなりの部分は、実は本当に必要な、あるいは質の高い研究とは限らない。
それは「医学博士号」を取得するという学位制度に起因している。
さらにこの制度を支えているのがいわゆる医局制度であり、教授による学位授与メカニズムが足かせになって、この医局制度が維持されている点は否定できない。
そこでは、創造的で競合的な研究システムというよりは、「教室」すなわち「教授の研究」を支える徒弟制度での「手足」としての研究者としての医局員である必要があり、その結果として学位が授与される、という機構である。
日本全体としての研究者の数と研究費から見れば、費用対効果はきわめて悪い。
日本が本当に国際社会で責任あるリーダーシップを、臨床医学でも医学研究でも発揮するには、もっと開かれた、本当の意味での競争原理を導入しない限り無理だと思う。
資源が少ない日本では、資源になるものは人間しかない。
そういう意味からも次の世代を担っていくようなより優れた人材を育てて、世界への貢献ということを十分に考えた、高等教育、大学教育、大学院制度をめざすべきである。
医師も例外ではない。
すぐにでも実現可能な提案臨床教育について、すぐにでも実現できる提案をいくつかしておきたい。
まず、他流試合を多くすること。
よその大学病院や教育病院を訪れる機会をなるべくつくり、臨床セミナー、症例検討、回診などをする。
症例はあらかじめ知らせる必要はない。
ぶっつけ本番でやらせれば、どの程度の臨床教育ができるか、どの程度の臨床家であるのか、よくわかってくる。
そのような情報はけっこう全国的に広まり、知られてくる。
臨床の教員にもっとアメリカ、イギリスの優れた教員を招聡する。
いつも複数(たとえば3〜6人)を招聴して、しかも一人ひとりは1〜4カ月の滞在とすれば、これら教員の家族そのほかの滞在にかかわる問題は少なくなるであろう。
M市民病院、O県立C病院などが優れた臨床教育をしている1つの理由に、不十分ではあるが、このようなシステムの導入がある。
ぜひ大学病院でも考えるべきである。
多くの優れた臨床教師に早くから触れさせるのは大変よいことである。
日本の大学、とくに医学部の臨床系教室は、入学試験以外は、基本的には混ざらない閉鎖社会である。
それがいわゆる「関連病院」の人事にまで及ぶ、ある意味ではきわめて日本的村社会の異常な閉鎖社会である。
いくつかの大学が「4+4」のメディカルスクール方式の「学士入学」を定員の一部に導入する方向にあるが、この「学士入学」制度がもっと広がれば、初めの学位を取った4年制大学と4年制医学部の大学が違うことを基本にしたアメリカ式は大変参考になろう。
現状のような、大学の入学試験の成績をいつまでも引きずって、卒業してからもいつまでも入学したと同じ大学にいるという狭い社会で生きてゆくよりは、せめて医学部という「職業訓練の学部」への入学・進学は、もっと混ぜてオープンにすべきである。
これを取り入れるだけで今よりはるかに質のよい医師ができるである。
アメリカやイギリスなどは、教員の採用はオープンであるが、情状による採用が少なく、それだけに一方では厳しい。
日本ではこれは難しいとするなら、ドイツのように、助教授は同じ大学の教授には直接には昇進できないとしてしまったらどうだろうか。
臨床にも、研究にも、実績と実力のある人材が登用される可能性が増えよう。
生命科学研究の「新幹線方式」いまのまま国の資金を大学に注ぎ込んで基盤整備したところで、現状の大学のシステムを変えるのは難しい。
それよりもいままでの大学の路線は在来線としてそのまま残してレベルアップするとして、それとは別に新たに国際的に開かれた研究機関をつくろうとするのが「新幹線方式」である。
これはたとえば、1ユニットが20人程度の生命科学の場合、人件費も含めて研究費として1ユニットに年間3億〜5億円ほど与えて10ユニットほどつくり、研究者は世界中から公募する。
国際的に開かれていて、研究費が各ユニットで約5億円程度あり、しかも各ユニットに中堅のスタッフが複数いて、有能な人が来やすい研究機関とする。
任期は1サイクル7年ぐらいとすると、2サイクルで14〜15年、その間に将来のノーベル賞受賞者が出る可能性はかなり高くなることは確実である。
新幹線方式の研究ユニットにいた研究者がまた在来線の大学の教授になったり、国立研究所の部長になるなどの交流も推進する。
(Kk)大学と産業界の提携日米のバイオテクノロジーこれまでの医学研究は小グループで行われてきたが、分子生物学の成果によりその姿を変えつつあり、今日では多くの専門家の協力が必要になっている。
10年後には、伝統的な医学研究はすっかり様相を変えているかもしれない。
分子細胞生物学はすでに生命科学の共通原理となったが、これらはすぐに医科学に取り入れられ、21世紀の医学研究の環境は現在とは大変違ったものになるだろう。
ヒトゲノム解析の進展により、診断だけでなく遺伝子治療をはじめ知識発見に基づく新たな治療法が開発されることは疑いない。
このような医学の発展に合わせて、世界中の大学で伝統的な講座の編成の改革が行われており、医学部や大学病院さらには製薬企業の研究もこれらの革命的変革から無縁ではありえない。
このように急速に変わりつつある中で研究を効果的に進めるために、我々は速やかに多くの変革を成し遂げなくてはならない。
もし改革に失敗したり遅れをとるならば、医学や薬学だけではなく、食料資源学、タンパク質工学、環境生態学、クリーンエネルギー学、ニューラルネットワークやコンピュータ科学など、社会にとって重要な他分野の研究にも否定的な影響を与えることになる。
こうした変化は、多くの有力な大学が私学で柔軟に運営されているアメリカにおいてより明らかである。
民間からの寄付によりM大学のホワイトヘッド研究所やSf大学のBセンターなどの研究所が設立されている。
また財団により支援されるH医学研究所は、多くのアメリカの大学でその研究活動を拡大している。
また、新たなバイオテクノロジー産業が咲き誇り、そこにも多くの若手研究者を引きつけている。
ベンチャー型のバイオテクノロジー研究所も数多くスタートしたが、これらのベンチャー企業は、その研究開発に最新の技術的成果を取り入れることに成功している。
これは研究体制が固定化されている大学ではなかなか困難である。
1980年代にNIHグラントを中心とする国の財政援助が縮小されたため、多くの研究者が大学からバイオテクノロジー産業に移った。
大きな製薬会社が大学に似たアカデミックタイプの研究所を支援する例もある。
第1世代のベンチャーは、主としてサイトカインやホルモンなど機能タンパク質を単離量産し、医薬品として用いたが、第2世代のベンチャーは、DNA・RNA工学などによる医薬品開発、遺伝子治療用ベクター開発などのプロセス自体も創薬の対象にしている。
現在では、DNAチップ、バイオインフォマティックス、ファーマコジェノミックスのようにゲノム医学に関係する第3世代のベンチャー(AM社、HGSになっている)。